豊島観光の完全ガイド|デザイナーが巡る西沢立衛建築と瀬戸内の絶景アート島旅

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高松港からフェリーに揺られること約35分。瀬戸内海の穏やかな水面の向こうに、緑に覆われた小さな島影が見えてきます。豊島(てしま)——香川県小豆郡土庄町に属する周囲約22キロのこの島は、豊かな湧き水と棚田が残る自然の島でありながら、世界的な建築家とアーティストの作品が点在する「アートの島」として注目を集めています。隣の直島とともに瀬戸内アートの双璧をなす存在ですが、豊島にはアートと自然がより親密に、より静かに寄り添い合っている独自の魅力があります。

筆者が豊島を訪れて最も印象に残ったのは、建築とアートと風景のあいだに境界がないことでした。丘に溶け込む白い建築の中で、水滴が床を這うように動いていく。頭上の開口部からは風と光が差し込み、鳥の声が空間を満たす。それは美術館で作品を「鑑賞する」体験とはまったく別のもので、自然の一部に溶け込んでいくような不思議な時間でした。

この記事では、豊島の主要アートスポットをデザイナーの視点で紹介します。西沢立衛の建築、ボルタンスキーの心臓音、横尾忠則の色彩世界、そして棚田と瀬戸内海が織りなす風景まで。初めて瀬戸内の島旅を計画する方にも、直島の次なる目的地を探している方にも、豊島の魅力をお伝えできれば幸いです。

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1. 豊島美術館――西沢立衛が設計した「水滴」の建築

丘に溶け込む有機的なシルエット

豊島を訪れるなら、何をおいてもまず足を運ぶべき場所が豊島美術館です。瀬戸内海を望む唐櫃(からと)地区の丘の中腹に、まるで地面から膨らみ上がったかのような白い建築が佇んでいます。設計はSANAA共同主宰でプリツカー賞受賞の建築家・西沢立衛。約40×60メートル、最高高さ約4.5メートルのコンクリート・シェル構造は、「水滴」をイメージした有機的な曲面で構成されています。柱が1本もない無柱空間、躯体の厚さわずか約25センチ。建築を超えてランドスケープそのものになろうとする、西沢の思想が形になった建物です。

一夜にして打たれたコンクリートの奇跡

デザイナーとして心を掴まれたのは、この建築が生まれた過程です。滑らかな曲面に打ち継ぎ目地を残さないために、コンクリートの打設は2010年3月11日の朝から翌12日の昼まで、夜を徹して一気に行われました。継ぎ目のないシームレスな曲面は、西沢が掲げた「人工的なオブジェクトでありながら、同時に丘のような自然さがあるもの」というコンセプトを実現するための、譲れない一線でした。屋根に設けられた2つの大きな開口部からは光、風、雨、鳥の声が内部に入り込み、建築と自然の境界が文字通り溶解しています。

内藤礼「母型」――床を流れる水の生命

この空間に恒久設置されているのが、アーティスト・内藤礼による「母型」(2010年〜)。床面に直径約2ミリの小さな孔が186か所に穿たれ、そこから地下水が断続的に湧き上がります。撥水剤が塗布された床の上を、水滴は生き物のように流れ、連結し、分裂し、やがて水たまりを形成していく。光の角度や風の強さ、季節によってまったく異なる表情を見せるその動きを、靴を脱いでコンクリートの冷たさを足裏に感じながら、ただ静かに眺める。「見る」というより「立ち会う」という表現がしっくりくる体験です。鑑賞料は1,570円、オンライン日時指定予約制。館内は撮影禁止なので、この空間の記憶は自分の中にだけ残ります。

2. 心臓音のアーカイブ――ボルタンスキーが遺した鼓動の記録

暗闇に明滅する命のリズム

豊島美術館が「静」の体験だとすれば、心臓音のアーカイブは「動」の体験です。2021年に亡くなったフランスのアーティスト、クリスチャン・ボルタンスキーが手がけたこの作品は、世界中の人々の心臓音を恒久的に保存し、鑑賞できる小さな美術館。館内は3つの部屋で構成されています。最初に足を踏み入れるハートルームは、真っ暗な空間の中で心臓音に合わせて電球が明滅する没入体験の場。闇の中で響く鼓動は、自分のものなのか他者のものなのか、やがてその区別さえ曖昧になっていきます。

自分の心臓音を世界に刻む

レコーディングルームでは自分の心臓音を録音・登録でき(登録料1,570円)、リスニングルームでは世界中の心臓音を検索して聴くことができます。ボルタンスキーが亡くなった今、この場所に収められた無数の鼓動のひとつひとつが、より一層の重みを持って響くように感じられます。鑑賞料はオンライン600円、窓口700円。15歳以下無料。

3. 豊島横尾館――色ガラスが変える古民家の光

横尾忠則の世界観が宿る3つの空間

家浦港から徒歩圏内の豊島横尾館は、美術家・横尾忠則の作品を展示する施設。建築家・永山祐子が古民家を改修し、「母屋」「倉」「納屋」の3空間に平面作品11点を展示しています。デザイナーとして注目したいのは、色ガラスを使った光のコントロール。窓の赤や青のガラスを通して差し込む光が、作品と空間を刻々と染め変えていきます。石庭と池、円筒状の塔が組み合わさった構成は、和の伝統と横尾ワールドの鮮烈さが違和感なく共存しています。鑑賞料はオンライン470円、窓口520円。

4. 針工場と島のアート散策――家浦エリアを歩く

大竹伸朗が蘇らせた造船の記憶

家浦岡集落にある針工場は、旧メリヤス針製造工場の跡地を活用したアート空間です。大竹伸朗が設置したのは、宇和島の造船所で約30年放置されていた鯛網漁船の木型。巨大な木型が工場空間に横たわる光景は、時間と記憶が堆積した独特の存在感を放っています。鑑賞料はオンライン470円、窓口520円。

アートカフェと屋外作品を巡る

家浦港のすぐ近くには、トビアス・レーベルガーによるカフェ イル ヴェントもあります。古民家をビビッドな配色とグラフィカルなパターンで改装したこのカフェは、それ自体がアート作品。屋外にはイオベット&ポンズの「勝者はいない─マルチ・バスケットボール」など無料で鑑賞できる常設作品も点在しており、島全体がギャラリーのように機能しています。

5. 唐櫃の棚田と清水――アートを育む原風景

瀬戸内海を背景に広がる復元棚田

豊島美術館へ向かう道中、自転車を漕いでいるとふいに視界が開け、棚田の風景が飛び込んできます。唐櫃の棚田は、2010年の瀬戸内国際芸術祭に合わせて約35枚が復元されたもの。段々の水田の向こうに日本屈指の美しさを誇る瀬戸内海の青が広がる光景は、この島がなぜ「豊島」と名付けられたのかを物語っています。棚田で育てられた米は島キッチンや美術館カフェの食材にもなっており、風景とアートと食がひとつの循環の中にあるのです。

弘法大師ゆかりの湧き水

棚田を支えてきたのが、檀山の麓から湧き出る唐櫃の清水(からとのしみず)です。弘法大師が自ら地面を掘って発見したとの伝説が残るこの湧水は、香川県「21世紀に残したい香川」にも選出されています。豊島美術館で地下水が床から湧き上がる「母型」を体験した後にこの清水を訪れると、アートと自然が同じ水脈でつながっているような感覚を覚えます。そんな循環こそが、豊島のアートを唯一無二のものにしているのだと思います。

6. 檀山展望台――瀬戸内海を一望する島の最高峰

360度パノラマの絶景

体力に余裕があれば、ぜひ足を延ばしてほしいのが檀山(だんやま)展望台です。豊島の最高峰・標高339メートルの山頂にある展望台からは、360度のパノラマで瀬戸内海を一望できます。唐櫃港、棚田、小豆島や直島など瀬戸内の島々が眼下に広がる光景は、この島旅のクライマックスにふさわしい眺め。中腹にはスダジイの原生林(県の天然記念物)も広がっています。ただし電動アシスト自転車でもかなりの勾配があるので、時間と体力の配分にはご注意を。

7. 島キッチンと豊島グルメ――アートと食が交差する場所

建築家が手がけた地域食堂

豊島でのランチは、唐櫃岡地区にある島キッチンがおすすめです。建築家・安部良が空き家を改装して設計したこの食堂は、瀬戸内国際芸術祭2010をきっかけに誕生しました。島キッチンセットや島野菜添えキーマカレーセット(各1,760円)など、豊島の食材を使ったメニューが楽しめます。地元のお母さんたちが調理に参加しており、アートプロジェクトと地域食堂の両面を持つ場所です。営業時間は11時〜16時(食事LO 14時)、Web予約は2日前の17時30分まで。人気店なので事前予約を強くおすすめします。

豊島美術館カフェのミニマルな空間

豊島美術館の併設カフェ(入館者のみ利用可)も見逃せません。ドーム型の白いミニマルな空間で、豊島の棚田米を使ったオリーブライスやイチゴソーダなど島の食材を活かしたメニューが楽しめます。ショップも併設されており、美術館での余韻を味わいながら瀬戸内海を眺めて過ごす贅沢な時間です。

8. アクセスとモデルコース――豊島アート旅の実践ガイド

高松港からのアクセスと島内移動

豊島への主なアクセスは、高松港からの高速旅客船です。所要時間は直行便で約35分、運賃は片道大人1,350〜1,450円。1日5〜6便運航、予約不要の先着順です。島には家浦港(メイン)と唐櫃港の2つの港があります。直島からは本村港から約20分(片道大人630円)で渡れるので、直島アート旅との周遊にも最適。岡山方面からは宇野港発のフェリーで約25〜40分、片道約770円です。

島内移動は電動アシスト自転車が必須です。坂道が多く、普通の自転車では消耗が激しい。家浦港近くに複数のレンタサイクル店があり、電動アシスト自転車は1日約1,500〜2,000円程度。バスは約2時間に1本と少ないため、アート巡りには自転車が圧倒的に便利です。

日帰りモデルコース(高松発)

家浦港で電動アシスト自転車を借り、午前中は家浦エリアの針工場、豊島横尾館、カフェ イル ヴェントを巡ります。自転車で唐櫃方面へ移動し(約20〜30分)、島キッチンでランチ。午後は豊島美術館、心臓音のアーカイブ、棚田と清水を散策して家浦港へ。主要スポットを4〜6時間で一巡できます。

直島・豊島 周遊プラン(1泊2日)

直島と豊島を組み合わせた1泊2日プランもおすすめです。初日は直島で地中美術館やベネッセハウスミュージアムを巡って宿泊し、2日目に本村港から豊島へ渡るルート。瀬戸内エリアの旅としては、尾道やしまなみ海道と組み合わせた周遊プランも素敵です。

訪れる前に知っておきたいこと

豊島美術館はオンライン日時指定予約制で、完売時は当日窓口販売がありません。旅の日程が決まったら真っ先にチケットを確保してください。営業時間は3〜10月が10時〜17時、11〜2月が10時〜16時で火曜休館(冬季は火〜木曜休館)。フェリーは天候により欠航することがあり、特に台風シーズンは要注意です。島は日陰が少ないため帽子と日焼け止めは必携。ベストシーズンは春(4〜5月)と秋(10〜11月)。瀬戸内国際芸術祭は3年に1度の開催で次回は2028年予定ですが、会期外でも常設作品は鑑賞可能です。最新の開館情報は各施設の公式サイトでご確認ください。

まとめ――自然とアートの境界が消える島

豊島は、美術館の「中」でアートを見る場所ではありません。丘に溶け込む建築、床から湧く水、棚田を抜ける風、闇に響く鼓動——この島では、アートが自然の延長線上にあり、自然がアートの一部です。西沢立衛の建築、内藤礼の水、ボルタンスキーの心臓音。それらはすべて、瀬戸内の光と風と水があって初めて成立する体験です。

高松港からわずか35分。その短い船旅の先に、日常の時間感覚がゆるやかに溶けていく島があります。白い空間で水滴の旅路を見つめ、棚田の風に吹かれ、夕暮れのフェリーで瀬戸内海の色が変わっていくのを眺める。デザイナーとして数多くの建築やアートを見てきましたが、豊島ほど「ここにしかない」と感じさせてくれる場所はそうありません。ぜひ一度、この小さな島を訪れてみてください。

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最新の観光情報はベネッセアートサイト直島および豊島観光ナビの公式サイトもあわせてご確認ください。

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